聖徳太子の十七条憲法を英訳
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聖徳太子の十七条憲法 (The Seventeen-article constitution) を拙者が英訳・現代語訳したものをこのページにまとめてあるでござる。
第一条
原文
一曰、以和爲貴、無忤爲宗。人皆有黨。亦少達者。是以、或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦、諧於論事、則事理自通。何事不成。
書き下し文
一に曰く、和を以(も)って貴(たっと)しと為し、忤(さから)うこと無きを宗(むね)とせよ。人皆党(たむら)有り、また達(さと)れる者少なし。ここを以って、或(ある)いは君父(くんぷ)に順(したが)わず、また隣里に違(たが)う。然(しか)れども、上(かみ)和(やわら)ぎ下(しも)睦(むつ)びて、事を論(あげつら)うに諧(かな)うときは、すなわち事理おのずから通ず。何事か成らざらん。
英訳文
Harmony should be valued and quarrels should be avoided. Everyone is apt to form a clique, and there are few people who are reasonable. Therefore some disobey their lords and fathers, and feud with their neighbors. But when superiors are in harmony and inferiors are friendly, then they discuss affairs in cooperation, everything will be reasonable spontaneously. Then there is nothing which cannot be accomplished.
現代語訳
和というものを何よりも大切にし、いさかいを起こさぬように心がけなさい。人は誰しもいずれかの共同体に所属しているが、そんな中にも道理が解った人は少ないものだ。そんな事だから君主や父親に逆らったり、近所で揉め事が起きたりする。しかし人の上に立つ者たちが和を尊重し、下の者たちが仲良くし、お互いに意見を出し合って議論をすれば、物事の道理は自然と通じるようになる。そうなればどんな事でも成し遂げられるだろう。
第二条
原文
二曰、篤敬三寶。々々者佛法僧也。則四生之終歸、萬國之極宗。何世何人、非貴是法。人鮮尤惡。能敎従之。其不歸三寶、何以直枉。
書き下し文
二に曰く、篤(あつ)く三宝(さんぼう)を敬え。三宝とは仏と法と僧なり。則(すなわ)ち四生(ししょう)の終帰(よりどころ)、万国(ばんごく)の極宗(ごくしゅう)なり。何(いず)れの世、何れの人かこの法を貴ばざる。人尤(はなは)だ悪(あ)しきもの鮮(すく)なし、能(よ)く教うれば従う。それ三宝に帰せずんば、何をもってか枉(まが)れるを直(ただ)さん。
英訳文
Be respectful to the three treasures sincerely. The three treasures, Buddha, the teachings of Buddha and priests, are the final refuge for all life, and are the ultimate doctrine in all countries. What person of what world can fail to respect the doctrine? Few people are awfully bad. If you guide them rightly, they will follow you. But if you guide them without the three treasures, how can you correct their badness?
現代語訳
三つの宝を敬いなさい。三つの宝とは仏と仏の教えと僧侶である。これらはこの世に生きる全ての命の最後のよりどころであり、全ての国における究極の規範である。どんな世の中のどんな人であれ仏の教えを尊ばない者があるだろうか。どうしようもない悪人というのは少ないものだから、彼らを正しく教え導けば正道に従うようになる。教え導くにあたってこの三つの宝をよりどころとするのでなければ、一体どんな教えをもって捻じ曲がった人の心を正せば良いのか。
第三条
原文
三曰、承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆地載。四時順行、萬気得通。地欲覆天、則致懐耳。是以、君言臣承。上行下靡。故承詔必愼。不謹自敗。
書き下し文
三に曰く、詔(みことのり)を承(うけたまわ)りては必ず謹(つつし)め。君をば天とす。臣をば地とす。天は覆(おお)い、地は載(いただ)く。四時(しじ)順行(じゅんこう)して、万気(ばんき)通(つう)ずることを得(う)る。地、天を覆わんと欲するときは、則(すなわ)ち壊(やぶ)るることを致さん。ここを以って、君言(のたま)うときは臣承る。上(かみ)行うときは下(しも)靡(なび)く。ゆえに詔を承りては必ず謹め。謹まずば、自(おのず)から敗れん。
英訳文
You must obey an imperial order certainly. An emperor is the heaven, vassals are the ground. The heaven overspreads the ground, and the ground supports the heaven. Then four seasons can rotates correctly and spirits of nature can run through whole the world. If the ground wants to overspread the heaven, it will ruin the order of nature. Therefore vassals must obey their lord. If superiors do it, inferiors will follow them. Therefore you must obey an imperial order certainly. Otherwise you will ruin the national order.
現代語訳
天皇のお言葉には必ず謹んで従いなさい。君主を天とするならば、臣下はいわば地である。天は地を覆い、地は天を戴くのがこの世の理である。その理に従って四季は巡り、万物の気は通うことができるのだ。もしここで地が天を覆おうとしたならば、この循環が壊れてしまうことだろう。だから君主の言葉に臣下は従わねばならない。人の上に立つ者たちが君主の言葉に従えば、下の者たちもそれを見習うものだ。だから天皇のお言葉には必ず謹んで従いなさい。さもなければ、国の秩序を駄目にしてしまうだろう。
第四条
原文
四曰。群卿百寮。以礼為本。其治民之本、要在乎礼。上不礼而下非齊。下無礼以必有罪。是以群臣有礼、位次不乱。百姓有礼、国家自治。
書き下し文
四に曰く、群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)、礼を以(も)って本(もと)とせよ。それ民を治むるの本は、かならず礼に在り。上(かみ)礼なきときは、下(しも)斉(ととの)わず、下礼なきときは以って必ず罪有り。ここを以って、群臣(ぐんしん)礼有るときは位次(いじ)乱れず、百姓(ひゃくせい)礼あるときは国家自(おのずか)ら治(おさ)まる。
英訳文
All the ministers and public officers should be based on courtesy. It must be based on courtesy to rule the people. If the public officers are not courteous, the common people are disorderly. If the common people are not courteous, there must be crimes. Therefore when the ministers and officers are courteous, the distinction of classes are not confused. And when the common people are courteous, the country will be in good order spontaneously.
現代語訳
朝廷に仕える官吏たちは、礼を行動の基本としなさい。民衆を治めることの基本は礼にある。人の上に立つものが礼を軽んずれば下の者たちの秩序は乱れ、下の者たちが礼を軽んずるようになれば必ず罪を犯す者がでてくる。だから臣下の間に礼が行われていれば身分秩序は乱れず、民衆の間に礼が行われていれば国家は自然と治まるものだ。
第五条
原文
五曰、絶饗棄欲、明辨訴訟。其百姓之訟、一日千事。一日尚爾、況乎累歳。須治訟者、得利爲常、見賄廳讞。便有財之訟、如石投水。乏者之訴、似水投石。是以貧民、則不知所由。臣道亦於焉闕。
書き下し文
五に曰く、餐(あじわいのむさぼり)を絶ち、欲(たからのほしみ)を棄てて、明らかに訴訟(うったえ)を弁(わきま)えよ。それ百姓(ひゃくせい)の訟(うったえ)は、一日に千事あり。一日すらなお爾(しか)るを、いわんや歳(とし)を累(かさ)ぬるをや。このごろ訟を治むる者、利を得るを常とし、賄(まいない)を見てはことわりもうすを聴く。すなわち財のあるものの訟は、石をもって水に投ぐるが如(ごと)し。貧しき者の訟は、水を以(も)って石に投ぐるに似たり。ここを以って、貧しき民は由(よ)る所を知らず。臣道またここに闕(か)く。
英訳文
The public officers must suppress their desire for meals and treasures and must deal with suits fairly. There are a thousand complaints by the people in a day. Then how many complaints will be after some years? Recently the officers who manage complaints have made judgments after receiving bribes. Then the suits of the rich are like a stone cast into water and the complaints of the poor are like water cast on a stone. Under the circumstances the poor people cannot rely on anybody. These things are against the way of the public officers.
現代語訳
朝廷に仕える官吏たちは、接待や金品への欲望を捨てて、公正な態度で訴訟に臨みなさい。民衆からの訴えは一日に千件もある。一日でさえこれほどならば、一年ではどれほどの訴訟があるだろうか。それなのに近頃の訴訟に携わる者たちは、賄賂を受け取る事が当たり前となっており、賄賂の額を確認してから訴えの内容を聞いている。それだから裕福な者たちの訴えは、水面に石を投げ込むかのように容易く受け入れられるが、貧しい者たちの訴えは、石の上に水をかけるかのように退けられる。このため貧しい民衆は、誰に頼ったら良いのか解らずにいる。このようなことは臣下の道に反する事である。
第六条
原文
六曰、懲惡勸善、古之良典。是以无匿人善、見悪必匡。其諂詐者、則爲覆国家之利器、爲絶人民之鋒劔。亦佞媚者、對上則好説下過、逢下則誹謗上失。其如此人、皆无忠於君、无仁於民。是大亂之本也。
書き下し文
六に曰く、悪を懲(こら)し善を勧(すす)むるは、古(いにしえ)の良き典(のり)なり。ここを以(も)って人の善を匿(かく)すことなく、悪を見ては必ず匡(ただ)せ。其(そ)れ諂(へつら)い詐(あざむ)く者は、則(すなわ)ち国家を覆(くつがえ)す利器(りき)たり、人民を絶つ鋒剣(ほうけん)たり。また佞(かたま)しく媚(こ)ぶる者は、上(かみ)に対しては則ち好んで下(しも)の過(あやまち)を説き、下に逢(あ)いては則ち上の失(あやまち)を誹謗(そし)る。それかくの如(ごと)きの人は、みな君に忠なく、民(たみ)に仁(じん)なし。これ大乱の本(もと)なり。
英訳文
Encourage the good and punish the evil. This is the good rule from ancient times. Therefore praise good deeds and correct evil deeds without fail. Flatterers and liars are effective tools to overthrow the country and are sharp swords to harm the people. Sycophants tell tales about inferiors to superiors and backbite about superiors to inferiors. People of this kind don't have loyalty to their lord and don't have love for the people. They are cause of a great confusion of the country.
現代語訳
悪を懲らしめ善を勧める事は、古くからの良いしきたりである。そこで人の善行を隠すことなく、悪行を見たら必ず正しなさい。他人にへつらって嘘を吐く者たちは、国家をくつがえす効果的な道具であり、民衆を傷つける鋭い剣である。また他人におもねり媚びる者たちは、目上に対しては目下の過失を言いつけ、目下に対しては目上の陰口を叩く。このような者たちは、君主に対しては忠誠の心を持たず、民衆に対しては仁愛の心を持たぬものだ。これらは国家の大きな乱れの原因となる。
第七条
原文
七曰、人各有任。掌宜不濫。其賢哲任官、頌音則起。姧者有官、禍亂則繁。世少生知。剋念作聖。事無大少、得人必治。時無急緩。遇賢自寛。因此、國家永久、社禝勿危。故古聖王、爲官以求人、爲人不求官。
書き下し文
七に曰く、人各(おのおの)任あり。掌(つかさど)ること宜(よろ)しく濫(みだ)れざるべし。それ賢哲(けんてつ)官に任ずるときは、頌(ほ)むる音(こえ)すなわち起こり、奸者(かんじゃ)官を有(たも)つときは、禍乱(からん)すなわち繁(しげ)し。世に生まれながら知るもの少なし。剋(よ)く念(おも)いて聖(ひじり)と作(な)る。事(こと)大少と無く、人を得て必ず治まる。時(とき)急緩(きゅうかん)と無く、賢に遇(あ)いておのずから寛(ゆたか)なり。これに因(よ)りて、国家永久にして、社稷(しゃしょく)危うからず。故に古(いにしえ)の聖王は、官のために人を求め、人のために官を求めず。
英訳文
Each person has their own duty. You must not abuse your authority. When a wise person is appointed suitable job, applause occurs. When an evil person is appointed some job, calamities occur frequently. There are few wise people by nature. Diligence makes saints. Regardless of the importance, matters will be solved when suitable people do their work correctly. Regardless of the speed of the change of the times, the country will prosper spontaneously when there are sages. Then the country will be free from danger and last forever. Therefore legendary holy kings sought the officers for government posts, and did not invent posts for the officers.
現代語訳
人にはそれぞれの役目というものがあり、自分の役目を超えて職権を濫用してはならない。賢明な人物が役職にある時には、周囲から褒める声があがり、邪な人物が役職にある時には、災いや乱れが頻繁に起こる。生まれながらに道理の解った人間というのは少なく、誰しも思い悩んで聖人となる。事の大小に関わらず、適任の人材が得られれば必ず問題は解決する。時代の変化の速度に関わらず、賢人が現れれば国は自然と豊かになる。これによって国家は長く栄えて滅びを避ける事ができるのだ。だから昔の聖なる王たちは、必要な官職のために人材を求める事はあっても、人材のために不必要な官職を設ける事はなかったのである。
第八条
原文
八曰、群卿百寮、早朝晏退。公事靡盬、終日難盡。是以、遲朝不逮于急。早退必事不盡。
書き下し文
八に曰く、群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)、早く朝(まい)りて晏(おそ)く退(しりぞ)け。公事(こうじ)盬(や)む事靡(な)く、終日(ひねもす)にも尽くし難(がた)し。ここを以(も)って、遅く朝るときは急なるに逮(およ)ばず。早く退けば必ず事(こと)尽くさず。
英訳文
All the ministers and public officers must come to the office early in the morning and must work till late. There are a lot of public duties. It is hard to deal with all of them even if you take a day. Therefore, you cannot deal with an emergency if you come to the office late. And you cannot deal with all your duties if you go home early.
現代語訳
朝廷に仕える官吏たちは、早く出勤して遅くまで働きなさい。公の仕事が尽きるという事は無く、一日かけても終わらせるのは難しいものだ。それだから遅くに出勤したなら急な事態に対処できず、早く帰宅したなら仕事を終わらせる事ができない。
第九条
原文
九曰、信是義本。毎事有信。其善惡成敗、要在于信。群臣共信、何事不成。群臣无信、萬事悉敗。
書き下し文
九に曰く、信はこれ義の本(もと)なり。事毎(ことごと)に信あるべし。それ善悪成敗(ぜんあくせいばい)はかならず信にあり。群臣(ぐんしん)とも信あるときは、何事か成らざらん。群臣信なきときは、万事ことごとく敗れん。
英訳文
Faith is the foundation of justice. In everything let there be faith. It depends on faith, whether everything is good or bad, succeeds or fails. If vassals have faith one another, everything will be accomplished. If they don't, everything will fail.
現代語訳
信頼は正義の根本である。どのような事においても信頼を大切にしなさい。物事が善くなるのも悪くなるのも、成功するのも失敗するのもすべて信頼があるかどうかにかかっている。臣下たちが互いに信頼しあっていれば、どんな事でも成し遂げられるだろう。臣下たちが互いに信頼しあっていなければ、どんな事でも失敗するだろう。
第十条
原文
十曰、絶忿棄瞋、不怒人違。人皆有心。々各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理、詎能可定。相共賢愚、如鐶无端。是以、彼人雖瞋、還恐我失。我獨雖得、從衆同擧。
書き下し文
十に曰く、忿(こころのいかり)を絶(た)ち、瞋(おもてのいかり)を棄(す)て、人の違(たが)うことを怒らざれ。人みな心有り。心に各(おのおの)執(と)るところ有り。彼是(ぜ)とすれば則(すなわ)ち我非とす。我是とすれば則ち彼非とす。我必ずしも聖に非(あら)ず。彼必ずしも愚に非ず。共にこれ凡夫(ぼんぷ)のみ。是非(ぜひ)の理(ことわり)、詎(なん)ぞ能(よ)く定むべけんや。相共(あいとも)に賢愚(けんぐ)なること、鐶(みみがね)の端(はし)なきが如(ごと)し。ここを以(も)って、彼の人は瞋(いか)ると雖(いえど)も、還(かえっ)て我が失(あやまち)を恐れよ。我独り得たりと雖も、衆に従いて同じく挙(おこな)え。
英訳文
Keep your mind without wrath, and don't show anger at your face. Do not get anger even if others differ from you. Everyone has his heart and opinion. His right may be your wrong, your right may be his wrong. You are not necessarily a sage. He is not necessarily a fool. All of us are mediocre people. Who can distinguish right from wrong without fail? All of us are wise and fool, like a ring has no end. Therefore if others get anger, think about your error. Even if you have a firm opinion, listen to others opinion carefully.
現代語訳
心の中の怒りを無くして顔の表情に出さないようにし、他人の意見が自分と違っても怒らないようにしなさい。人にはそれぞれの心があり、それぞれの考え方というものがあるのだ。相手が良いという事でも自分にとっては悪いという事もあり、自分が良いという事でも相手にとっては悪いという事もある。自分は決して間違いを犯さぬ聖人ではないし、相手が間違いだらけの愚者というわけでもない。お互いが平凡なただの人間なのだ。そもそも良いとか悪いとか判断する道理を、ただの人間の身でどうやって決めるというのか。お互いに賢くもあり、愚かであるという事は、耳輪に端がないようなものだ。それだから、相手が自分に対して怒っている時には、自分に過ちがなかったかどうかよく考えなさい。自分の意見に自信がある時でも、人々の意見に耳を傾けて受け入れなさい。
第十一条
原文
十一曰、明察功過、賞罰必當。日者賞不在功、罰不在罪。執事群卿、宜明賞罰。
書き下し文
十一に曰く、功過(こうか)を明らかに察して、賞罰を必ず当てよ。このごろ、賞は功においてせず、罰は罪においてせず、事(こと)を執(と)る群卿(ぐんけい)、宜(よろ)しく賞罰を明らかにすべし。
英訳文
Give clear evaluation to merits and faults and give sure rewards and punishments to them. Recently there have been rewards without merit and punishments without fault. All the ministers who have responsibility, make clear rewards and punishments.
現代語訳
部下の功績と過失を正しく評価して、それに見合った賞罰を与えるようにしなさい。近頃は功績も無いのに賞されたり、過失も無いのに罰せられる事がある。賞罰を与える立場にある官吏たちは、適正かつ明確に行うべきである。
第十二条
原文
十二曰、國司國造、勿斂百姓。國非二君、民無兩主。率土兆民、以王爲主。所任官司、皆是王臣。何敢與公、賦斂百姓。
書き下し文
十二に曰く、国司(くにのみこともち)、国造(くにのみやつこ)、百姓(ひゃくせい)に斂(おさ)めとることなかれ。国に二君(にくん)なく、民に両主(りょうしゅ)無し。率徒(そつど)の兆民(ちょうみん)は王を以(も)って主(あるじ)となす。任ずる所の官司(かんじ)はみなこれ王の臣なり。何ぞ敢(あ)えて公と与(とも)に、百姓に賦斂(おさめと)らん。
英訳文
The prefects and governors must not impose taxes on people without leave. In this country, there are not two monarchs. The people cannot have two lords. The emperor is the unique sovereign of the people of the whole country. The public officers whom he appointed are all his vassals. How can they impose a tax except official taxes by the emperor?
現代語訳
地方を治める長官たちは、民衆に対して勝手に課税してはならない。国に二人の君主はおらず、民衆にも二人の主はいない。この国に暮らす全ての民衆にとって主は天皇ただ一人である。天皇が任命する地方官はみなその臣下である。どうして天皇が定める税と一緒に、勝手な税を取り立てる事ができようか。
第十三条
原文
十三曰、諸任官者、同知職掌。或病或使、有闕於事。然得知之日、和如曾識。其以非與聞、勿防公務。
書き下し文
十三に曰く、諸(もろもろ)の官に任ぜる者、同じく職掌(しょくしょう)を知れ。或(ある)いは病し、或いは使(つかい)して、事を闕(おこた)ることあらん。然(しか)れども知ることを得る日には、和(あまな)うこと曽(かつ)てより識(し)れるが如(ごと)くせよ。それを与(あずか)り聞かずということを以(も)って、公務を妨(さまた)ぐることなかれ。
英訳文
All officers entrusted with government affairs must understand all your duties. Your work may sometimes be interrupted due to your illness or missions. But when you come back to the office, understand what you should do as if you had known it. And do not obstruct government affairs for the reason that you do not know it.
現代語訳
官職に任じられた者たちは、自分の職務をよく理解しなさい。病気になったり、出張をしたりして、職場を離れる事もあるだろう。しかし再び職務に戻った時には、以前よりも熟知しているかのように遅れを取り戻しなさい。職場に居なかった間の事は知らないと言って、公務を停滞させてはならない。
第十四条
原文
十四曰、群臣百寮、無有嫉妬。我既嫉人、々亦嫉我。嫉妬之患、不知其極。所以、智勝於己則不悦。才優於己則嫉妬。是以、五百之乃今遇賢。千載以難待一聖。其不得賢聖。何以治國。
書き下し文
十四に曰く、群臣百寮(ぐんしんひゃくりょう)、嫉妬(しっと)有ること無かれ。我既に人を嫉(うらや)むときは、人また我を嫉む。嫉妬の患(うれ)え、その極(きわまり)を知らず。ゆえに、智(ち)おのれに勝るときは則(すなわ)ち悦(よろこ)ばず。才おのれに優(まさ)るときは則ち嫉妬(ねた)む。ここを以(も)って、五百(いおとせ)にしていまし賢に遇(あ)うとも、千載(せんざい)にして以ってひとりの聖を持つことに難(かた)し。それ賢聖を得ずば、何をもってか国を治めん。
英訳文
All vassals and public officers must not envy others. When you envy others, they also envy you. The evils of envy have no limit. If someone excels you in intelligence, you will be displeased. If someone excels you in talent, you will envy the person. Therefore, we cannot obtain a saint even after 1000 years, though we meet a sage who appears every 500 years. Without a saint and sages, how can we govern the country?
現代語訳
朝廷に仕える官吏たちは、嫉妬の心を抱く事がないようにしなさい。自分が他人を嫉むという事は、自分も他人から嫉まれるという事である。嫉妬が人間関係に与える弊害はとどまる所を知らない。自分よりも賢い人がいれば不愉快に思い、自分よりも才能豊かな人がいれば嫉妬する。そんな事では500年に一度現れるという賢人に会ったとしてもその人を認めず、我々は1000年経っても聖人を得ることは難しいであろう。聖人や賢人を人材として得られなければ、どうやって国を治めていけばよいのか。
第十五条
原文
十五曰、背私向公、是臣之道矣。凡人有私必有恨。有憾必非同、非同則以私妨公。憾起則違制害法。故初章云、上下和諧、其亦是情歟。
書き下し文
十五に曰く、私(わたくし)に背(そむ)きて公(おおやけ)に向うは、これ臣の道なり。およそ人、私あれば必ず恨(うらみ)あり、憾(うらみ)あれば必ず同(ととのお)らず。同らざれば則(すなわ)ち私をもって公を妨(さまた)ぐ。憾起こるときは則ち制に違(たが)い法を害(やぶ)る。故に、初めの章に云(い)わく、上下和諧(わかい)せよ。それまたこの情(こころ)なるか。
英訳文
The way of vassals is to concentrate on official duties without one's own desire. If you do your duties with your desire, there will be a grudge. If there is a grudge, there will be discord. If there is discord, it will obstruct official duties. Then if there is a grudge, it will ruin the official system and laws. Therefore as I said in article 1, "Superiors and inferiors must cooperate together."
現代語訳
私情を捨てて公務に向かうのは、臣下たる者の道である。どんな人間でも私情から他人を恨むようになり、恨みの気持ちがあれば人の和を乱すことになる。人の和が乱れていれば私情によって公務に弊害を及ぼす。また恨みの気持ちから規則や法を破る者もでてくる。私が第一条で上の者も下の者も互いに仲良くせよと言っているのは、こう言った事なのである。
第十六条
原文
十六曰、使民以時、古之良典。故冬月有間、以可使民。從春至秋、農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何服。
書き下し文
十六に曰く、民を使うに時を以(も)ってするは、古(いにしえ)の良き典(のり)なり。故に、冬の月に間(いとま)あらば、以って民を使うべし。春より秋に至るまでは、農桑(のうそう)の節(とき)なり。民を使うべからず。それ農(たつく)らずば何をか食らわん。桑(くわと)らずば何をか服(き)ん。
英訳文
When you employ the people for public duties, you must consider seasons. This is the good rule from ancient times. Therefore you should employ them in winter while they are at leisure. From spring to autumn, they are engaged in agriculture and sericulture. You should not employ the people. If they do not cultivate fields, what can we eat? If they do not raise silkworms, what can we wear?
現代語訳
時節を選んで民衆を使役するのは、古くからの良いしきたりである。だから冬の間の手が空く時に、民衆を使役するようにしなさい。春から秋にかけては、農耕や養蚕をしなければならないから、民衆を使役してはならない。彼らが農耕をしなければ我々は一体何を食べるというのか。養蚕をしなければ我々は一体何を着るというのか。
第十七条
原文
十七曰、夫事不可濁斷。必與衆宜論。少事是輕。不可必衆。唯逮論大事、若疑有失。故與衆相辨、辭則得理。
書き下し文
十七に曰く、それ事(こと)は独り断(さだ)むべからず。必ず衆とともに宜しく論(あげつら)うべし。少事はこれを軽し。必ずしも衆とすべからず。ただ大事を論うに逮(およ)びては、もしは失(あやまち)有らんことを疑う。ゆえに衆とともに相弁(あいわきま)うるときは、辞(こと)則(すなわ)ち理を得ん。
英訳文
When you make an important decision, you must discuss with others. You may decide small matters alone. However, important matters should be discussed with others not to make an error. If you discuss with others, you will obtain a reasonable conclusion.
現代語訳
物事は一人で判断してはいけない。必ず他の者たちと一緒に議論して決めなさい。些細な事については、必ずしも他の者の意見を聞かなくても良い。しかし重要な事を議論して決める時には、過ちがあってはならない。他の者たちと相談して判断するならば、道理の通った結論が得られるであろう。
Translated by へいはちろう